2度あることは‥。
2012年1月
本田(記録)
常緑樹のシャクナゲが雪の中でどうなっているのか、見たくなって、大峰の稲村ケ岳を目指した。母公堂横の登山道から法力峠、そこから稲村小屋、大日山、稲村ヶ岳というルートを設定した。雪は多かったが、ほぼ夏道どおりにトレースがついている。沢を何度もトラバースする。小さな橋が架けられているので安心だが、橋の架かっていないところは雪で滑りやすく危険だ。鎖場は雪に埋められて、鎖だけが足下にある。
稲村の小屋はまだか、と思い始めた頃、行く手の沢にかかる小橋に人影を認めた。人山してから初めての人だ。足元に目を落とし、ふと目をあげるともういない。なぜか違和感が湧く。そうだ、ザックを背負っていない。なぜ空身なんだ。足はあったよな、と考えながら小橋までくると、その先の少し広くなったところに雪を踏み固めて荷を置き、足踏みしている青年がいた。他のメンバーより早く来て、待っているのかなと思った。挨拶を交わして(よかった人間だ)小屋へ向かう。
夏出では涼しい小屋まわりの広場は、烈風吹きすさぶ白い塊と化していた。計画より1時間以上遅れている。そそくさと食事を済ませ、諦めて引き返すことにした。
下り始めると、先ほどの青年がまだ立っている。どうしたのだろうと思っていると青年のほうから声をかけてきた。「ひょっとしてローブを持っていませんか」腑に落ちた。
「誰か落ちたの?」と聞くと、[はい]と青年。「8ミリ、ツインだけど20mあるから」と答え、スリング、カラビナも持って小橋から下を見ると人の姿があった。
「2人?」「はい」
幸い落ちた二人は、ひどいケガもなさそうだ。ロープさえあれば自力で登ってこれそうだ。
「落ち着いてゆっくり」声をかけながらビレイ。青年にも長めのスリングを渡し、手伝ってもらって、二人がかりで何とか引き上げた。
あともう一人。、この人は青年と変わらず若く、また元気だ。ローブを使って、ほどなく上がることができた。「ああ良かった」と、ふと気が付くと、4〜5人の登山者が私たちを見ていた、道を塞いでいたのだ。「すいませんでした。どうぞ。」と声をかけると、男女2人のパーティが先へ進んだ。ロープを整理していると[あー]の声、見ると女性が滑っている。幸い3mほどで止まった。男性が叫ぶ。「そのロープ貸してください。」
男性のサポートもあり、女性はなんとか登山道へ復帰できた。
「ローブは張っておくので使ってください。」そう言うしかなかった。全員が渡り終えロープを回収しようとしていると、先ほどの青年が自分にも手伝わせてくれと言う。良い青年だ。
後はパッキングだけになったので、落ちた2人についてやって欲しいと言うと、素直に従った。
やがて彼らに追いつき、もう一度声をかけた。彼らからは何度も、何度もお礼を言われた。
名前を聞かれることは無かった。もし聞かれたら言いたかったな。
「名乗るほどの者ではないです。」って。
(本田)
